3.16.2012

家守綺譚

前回書いたとおり、図書館から借りてきた梨木香歩さんの「家守綺譚」を読み終えました。
返却の時期になったのですが、あまりに良い本だったので手元に置きたくなり、文庫本を購入しました。
文庫本の「家守綺譚」
梨木香歩 著
新潮文庫
ISBN:9784101253374

パラパラとめくってみると、文庫本なのに文字サイズは単行本よりも大きく感じます。
老眼の私には読みやすくて、大変有難いことです。
しかも文庫版のほうには、巻末に、主人公である綿貫征四郎の随筆「烏蘞苺記(やぶがらしのき)」が収録されていて、これまた嬉しい限りでした。

この本の何が良かったのかといいますと、Amazonのレビューの大多数の方々の意見と同じで、この物語に登場する人、動物、植物、人魚、河童、狸、小鬼、精霊などなど、どれもが魅力的なのです。
そしてこの本のもつ雰囲気とか空気がとても心地よいのです。摩訶不思議な出来事も多々起こるのに、淡々として静寂で、早く読み進めるのが勿体ないような「味わう作品」でした。

すごいなぁと思ったのは、梨木さんの用いる日本語で、とても美しくて読んでいて時々ため息が出たほどです。
私は日本語の漢字が苦手で、恥ずかしながら読めない漢字もありました。
以前はそのことに劣等感を持ち、余計に日本文学から遠のいていたことも有りましたが、それでも美しい日本語を使いたいといった気持ちはどこかしら有りますし、美しい日本語に触れていたいという思いも時々沸き起こってきます。

悲しいかな、自分の日本語力の低さや乏しさにガックリとしながらも、それでもこの物語に浸っていたいという思いが湧いてきます。こういった本はただ単にサラっと読んで、「あぁ〜面白かった」では終わらせたくなくて、読んでいてどうしても読めない漢字は、その短編を読み終わった後に、メモに書き留め、後で調べて、再度読み返したりして、作品としては勿論、使われている言葉自体も、じっくりと味わいたくなるのです。

梨木さんのこの「家守綺譚」には、それぞれの短編のタイトルに全て植物名が付けられています。私は植物には結構詳しいほうだと自分では思っていたのです・・・・実際、出てくる植物を大体想像出来たり、庭に育っている植物をイメージ出来たりしたのですが、一つだけ始めて目にした植物名が有りました。
「ヒツジグサ」と書かれたその植物は、スイレン科の多年草のことだそうで、この植物の描写がまたとても面白いのです。

すこし引用しますと
----池には、今、小さな睡蓮が咲いている。ヒツジグサという名だそうだ。よく付けたもので、未の刻になると律儀に花を開く。この水草が、最近、「けけけっ」とたいそうけたたましく鳴く。未なら他に鳴きようもあろうに。サルスベリはあまりこの花を好かないらしい。これが咲くといかにも嫌そうに幹が反る。俺は揉め事はまっぴらだよ、と云ってあるので今のところ大事には至っていない。
ゴローは最初、ヒツジグサが鳴くとぎょっとして飛び上がっていたが、今では慣れたもので昼寝の目を開けようともしない。----

「けけけっと鳴くヒツジグサ。いつか機会があれば、実際に鳴くところを見てみたい!」
このようにして、出てくる植物に思いを馳せるのも、また楽しみの一つです。

梨木さんといえば、「西の魔女が死んだ」が有名で、私も映画としてDVDで見ていたのですが、本として作品を読んだのはこれが始めてでした。実は「西の魔女が死んだ」の著者と「家守綺譚」の著者と、「春になったら苺を摘みに」の著者が同じ方だとは全く気付かなかったのです。(昨年「春になったら苺を摘みに」という本もブックオフで購入していたのですが、この本はまだ未読です。同じ著者だと知ったのは、「家守綺譚」を読んでいる途中だったのです。いずれ読もうと思っています。)

「西の魔女が死んだ」はDVDでしか見たことがないのですが、今思えば、最後のほうでかなり精神世界の話になっていて、「人は亡くなって肉体が無くなっても、魂は永遠」のような話がサラリと出てきていました。サラリと出てくるというのが、梨木さんの作品では特別騒ぎ立てることじゃなく、普通の感覚なんだなぁと、「家守綺譚」を読んでいても感じました。

ネイティブ・アメリカンの価値観や、老子のタオ(道)が好きな私なので、この梨木さんの世界感にも、同じような感覚を覚えて好きなのかな思いました。

久々に「持っていて時々味わいたくなる本」に出会えました。
近々TAO(タオ)や老子のことについても、このブログに記すことが出来たらいいなぁと思っています。何しろ奥が深くて深くて、素晴らしいので、私の拙い日本語の文章を使ってどこまで良さが説明出来るのか・・・・これも練習と思っています。

0 件のコメント: